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2022年 「一乗の舟」

2022年4月8日gallery,ようこそ,小品の展示室大乗 仏教

何をするでもなくこの舟は浮かんでいる、どこに浮かんでいるかといえば荒れ狂う恐怖の海だ。

自分は何時この舟に乗り込んだのか、どうしても思い出すことが出来ない。

先ほどより荒れ狂う海鳴りが「ゴウゴウ」と聞こえてはいるが舟が揺れる気配はない。いったいどれほどの広さの舟なのか、その甲板はどこまでも平らに続いているようで静かに感じる。そして舟の上には一体どれほどの人がいるのか漆黒の闇で見渡すことも出来ない。荒れ狂う海もまた闇に隠れて窺い知ることはかなわないのだ。

波は余程荒れ狂っているのか、ときおり波しぶきがほほを濡らしている。

私はこの恐ろしい波飛沫を受ける度、この舟に居ることを感謝した。「私は一体いつこの船に乗り込んだのだろう。」私はこんな素晴らしい舟に載せてほしいなどと誰にも頼んだ覚えがないし、何らかの報酬を払った記憶もない。気が付いたらこの舟の上だったような気がする、

そんなことをあれこれ考えていると、水平線の向こうが白んできた。そこであらためて周りを見わたして驚いた、甲板の上には誰もいなかった。驚いて立ち上がろうとしたら更に驚いた「自分の体がない」あるのは甲板だけで何もないのだ。

これはいったいどういうことだ、暗闇の中では確かに人の気配がしていたのに、日の光に照らされた甲板の上には誰もいない、それどころか私の姿も見当たらないのだ。

舟は太陽を背にしてますぐに進んでいる。しばらくは途方に暮れていたが、自分の姿を見つけることは出来なかった。残念なことだがこの先はこの舟を自分と思うしかないようだ。

それにしても大きいことは分かるのにどんな姿なのか、舟になった自分はその姿を観ることが出来ない。それは出来なくても何故かこの舟が絶対に沈まないことは理解できている、絶対の信頼というやつだ。そう考えるとちょっと愉快になってきた。あれほど恐ろしかった恐怖の海もちょっとちょっかいを出したくなる。「進め進め何処までも」