２０２３年 神話
さて何の神話か、今の私には全くわからない、ただいずれ分かることだという強い思いがある。今のところ私にとって絵を描くことはトイレで用を足すのと変わらない、気楽なものだと思っている。ところが、これで何かしらの結果を求めなければならない行為だったとしたら、これはこれで大変厳しい世界なのだと思う。
もしこれが、家族や自分の命をつなぐ糧だったとしたらどうだろう、絵を描くことを楽しむよりも絵を見る人の評価が気になって、自分の満足を後回しにして、鑑賞者の満足を真っ先に考えてしまうのではないだろうか。
きっと画家を目指す人のほとんどは、こんな切ない思いに行き当たるのかもしれない、とはいえ結果を求めなければ、私にとってこれほど楽しい世界もないと思っている。真っ白なキャンバスに自由に絵を描くことは、自分が描くまで、まだ誰も見たこともない世界を旅するようなもので、ちょうど松尾芭蕉が奥の細道に記した、旅立への沸き立つ思いのように感じる。
はたから見るとひたすら部屋にこもって絵筆を握る姿は、孤独で物悲しい姿に映るかもしれない。ところが私にとって絵を描く行為は自分の味わいたい風景を旅する至福の時なのだ。