今日のできごと
２０２１年 １月21日 音が見えた
いまから、３０年も前、札幌交響楽団のコンサートでの出来事です。指揮は山田一雄さん、結構派手目の指揮で、とても人気がありました。小柄な体格でジャンプしながら目いっぱいの表現で、熱く指揮棒を振っていました。そのような演出は、いかなる時の聴衆にも好ましく受け入れられるものです。
その日のコンサートの締めは、ベートーヴェンの第６、「田園」です。最初、コンサートが始まったころは、あまり体調がすぐれないようにお見受けしていましたが、第４楽章冒頭から、コントラバスが朗々と鳴り響いてくると、音楽が内包するエネルギーとマエストロの湧き上がるパッションが融合し一体化してしまったようで、もはや何者も抑えきれないような気配が、ホールを満たしていました。
その時、目の当たりにしたのが、音楽の渦です。見えるはずのない音楽の渦がまるで龍のごとく舞台中央から立ち上がり、客席めがけて踊りかかてくるようなそんな、印象を受けました。音が視覚化するという初めての体験です。その時のマエストロは余程体力を消耗させたのか、カーテンコールで、喝さいを浴びると、よろけてコンサートマスターの譜面台を手に引っ掛け、そのまま譜面を花吹雪のごとくまき散らしながら、舞台の袖に戻られたことを記憶しています。それから間もなくマエストロの訃報を耳にしましたが。人を感動させる方の生きざまをまざまざと、見せられる思いでした。