令和 あくび指南
2024年 11月8日 マシュマロマン何処へ
昔ゴーストバスターズという人気の映画があった。その中の一シーンにミシュランタイヤのイメージキャラクターが巨大化して人間を襲うシーンがあった。これを見ただけでは、このキャラクターが自動車のタイヤをモチーフにしていることなど誰も想像出来ないだろう、どう見てもマシュマロのようにしか見えないからだ。
とはいえミシュランタイヤといえば、単にフランスの有力タイヤメーカーというだけでは済まないブランド力を持っている。それが、ミシュランガイドブックという1900年パリ万博開催の年に刊行された自動車旅行用ガイドブックだ。ここにはフランス全土の道路地図と宿泊施設の情報が載せられた。今では日本でも聞きなれた三ツ星レストランという評価はこのガイドブックに掲載されるマークに由来する。当然このマークが多いほどその店の評価は高いことになる。因みに三ツ星の評価はその店の料理を味わうためだけに旅行を計画しても損はないという評価になる。いまでもこの評価がその店の経営を左右するほどの権威となり、世界中の食いしん坊がこの評価を信頼してフランスの星付きレストランを目指しフランスの地を訪れた。こんなこともあってフランスは芸術の都であり、食の都というイメージが地球の裏側にある日本でも根強い。
ところでこのミシュランガイドにある、世界中の星付きレストランをみれば、母国フランスに次ぎ、何故か日本のレストランが圧倒的に多い。それだけフランスと日本の文化的つながりは強く美意識や食に対する情熱は並々ならないものがあると思うのだ。
ところでそんなフランス文化に多大な功績のあるミシュランタイヤがフランス、ブルターニュ地方にあるショレ、ヴァンヌというともに人口5万人ほどの街にある工場を閉鎖するという。これほど小さな町での雇用喪失は街に与えるダメージを考えると、相当大きなものに違いない。とはいえ閉鎖の原因はアジアとの貿易摩擦にあるそうなので、日本も恨まれそうな立場かも知れない。とはいえ自動車タイヤは自動車メーカーとセットで販売されることが多く、そうだとすればEV化に遅れたヨーロッパメーカーの悲哀と言えるかもしれない。これがエコカー減税などの税金投入で推進されていたとすれば、ようするに税金をつかっれ自国の首を絞めたことになる。これをミゼラブルと言わずして何を言うのか。
とはいえ、このような悲劇は日本も例外ではない。これまでの日本は野山を緑に囲まれ、川を流れる水の安全性は誰も疑う人などいなかった。ところが現在の田舎の景色はどうだろうか、野山は太陽光パネルに覆われ、海辺を見れば異様に大きな風車が所狭しと並んでいる、これでは風流を味わうどころの騒ぎではない。つまり、エコロジーの為と言いながら、これまでの自然環境とは別次元の早さで環境が破壊されているように私は感じるのだ。要するに今流行りのエコロジーは自然環境を歪な形でいじくりまわし、その永続性すら疑わしい。
これにより人々の大切な文化が失われてはいないだろうか、ミシュランガイドが評価する食文化は、単なる料理の美味い不味いの評価だけではない、そこに提供されるサービスにまで厳しい目が注がれている。つまり124年にもわたってフランス食文化の基準を創ってきた会社でもあるのだ。そしてフランス人の食文化の最も大切にしてきたことは何か、それはコミュニケーションを時間をかけて楽しむという事だ。ともすれば店の豪華な設え、高価な珍味に目が奪われてしまうフランス料理だが、平民の楽しむフランス料理はそこで収穫される大地の感謝であり、収穫を共に喜ぶ儀式のようでもあった。地方の衰退は大切な文化の消失に感じてならない。