日々これ切実
2025年 8月7日 信じればこそ
先日の落語研究会を視ながら、落語は噺の筋だけ覚えればそれで終わりという世界で無いことを感じた。さてこの回のトップバッターは桃月庵白酒氏で座布団に座るだけでも姿が良い、なんと落語家としては恵まれ人かと思う。何しろ艶のある噺家は数多いても照りのある噺家 というのはそう多くはない。そんな恵まれた噺家の苦労話にはやはり考え深いものがある。桃月庵氏といえば人間国宝五街道雲助氏の一門だ。そんな名門で修行する白酒氏が、通いになって家の近くにあるコインシャワーを利用していた時の話をされていた。なんでもコインシャワーに掛かる100円を節約するために、前もって家の台所でシャンプーした後、シャワーを浴びるため裸のまま街中に飛び出したという当然警官から呼び止められたという思い出を語られていた。
それにしても、そこまで修業時代の噺家は切り詰めなければならないのかと思うと、一門の噺家になるためには並大抵の覚悟では務まらない、では一体何が彼の心を支え続けてきたのかと考えると結局自分を信じ切るしかないのではと思う。
さて今回の演目は氏子中という噺の内容は驚くほど破廉恥といえば身も蓋もない。つづいて柳谷小萬ん氏の猫の災難というこちらも、酒飲みの卑しさをこれでもかというほど描き切る。ところがこんな噺の箸にも棒にもという主人公が何故か憎めない、憎めない様に話すのが噺家の芸というものなのか、ぐびぐび豪快に盃を開けるしぐさは、こちらまで酒の魅力に引き込まれてしまう。
今回3番手に登場した春風亭朝枝氏は落ち着いた様子にも関わらず艶のある話っぶりはいずれ独自の芸を確立させていく期待を抱かせる。そして今回番組のトリを務めたのは春風亭一朝氏以前登場した時もなかなかの着道楽にお見受けしたが、今回のいで立ちも豪華な献上の羽織と合わせの着物から強い思いが伝わってくる。それにしても話のテンポの良さに江戸の粋を感じてしまう。話の面白さは噺家が普段の生活から身につけた独特の生活感が噺の味わいに繋がってくるのかもしれない。味わいといえば艶よりどうしても照りなのかもしれない。