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日々これ切実

2025年12月7日ようこそ

2025年 12月7日 恐れ入りました

先日国宝という映画を見て役者魂の凄まじさを感じていたところだった。ところが私はすぐさまプロの歌舞伎役者と俳優の演技ではどれほどの差が出るのか興味が湧いてきた。せっかくの感動も冷めやらぬうちに、このような意地悪な興味を抱いてしまうのはなんだか後ろめたい気もするのだが、一度気になったら止められないのが私の悲しい性である。

今回私の意地悪な興味の参考にさせて頂いたのは、リアル人間国宝の5代目坂東玉三郎氏による鷺娘の動画だった。この動画をみた瞬間から私は自分の知識の至らなさを恥じてしまった。というのも女形であればどこかに男性性が露呈してしまうのがリアルな表現という思い込みで、節くれだった手指やおしろいのムラなどの表現は男性性のリアルを追求した結果と受け止めていた。ところが、玉三郎氏の実際の映像では、その肌はむきたてのゆで卵のように滑らかで、日本人形そのもののようにも感じた。しかも手指の綺麗さはどれほど普段から女形を意識して暮らされてきたのかということだ。そこから想像できるのは人生そのものを女形に徹するという生き方だ。しかも鷺娘に見られる舞踊の表現は人間とも鷺ともつかない空想の世界であるにもかかわらず、現実にでも存在しているかの様な説得力を持つ。

話しは変わるが人間国宝といえば落語の世界では、五街道雲助氏がその認定を受けている。同じ芸能の世界でありながらも修業時代から、やはり大きな違いがあるようで興味深い。というのも、人間国宝五街道氏の弟子桃月庵白酒氏は修業時代、100円のコインシャワー代をケチるために街中を裸で駆け抜けたという話を思い出す。同じ芸の修業とは言え、やはりそこには様々な世界があるようだ。とはいえ私にはどちらかといえば、気楽そうな方が性に合っているように感じる。因みに昨日落語研究会の放送で久しぶりに桂吉弥氏が登場した。相変わらず軽快な話しぶりは関西ならではを感じたが、いずれ関西の落語界にも米朝の後を継ぐ人間国宝が誕生するのかもしれない。

ところで、落語研究会ではこの後3代目柳家権太楼氏が登場する。お囃子の金毘羅ふねふねが始まるとすかさず「待ってました」の掛け声が掛かった。師匠の枕を聞いて驚いたのは、氏は1年間ほど闘病の為高座を離れていたという。確かにそういわれれば顔が少しやつれたようにも感じたが、張りのある声は今までと変わりがなかった。しかも観客は合気道の達人と立ち会うかのように思わず笑ってしまう。

因みに修業時代の話題といえば、今回とりに登場した古今亭志ん輔は演目に今戸の狐という噺を持ってきた。ところがこの噺は、普段効き慣れない符牒を理解してもらわなければ話が落ちない。要するにこの世界ではサイコロを3つ使った博打は狐と呼び、動物の骨で出来たサイコロは骨の賽というそうだ。このことを何とか枕で修業時代に欲しかった革ジャンの話題につなげ噺の伏線を張っていたのだが、これが最後の落ちでスッキリ回収されるところは鮮やかだった。

改めて今回坂東玉三郎氏、柳家権太楼氏には芸に掛ける凄まじさというものを見せつけられた。これにはただただ恐れ入るしかない、恐れ入り谷の鬼子母神なのである。

 

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Posted by makotoazuma