日々これ切実
2026年 1月4日 たっぷり!

昨日今年初めての落語研究会の放送があった。最初の登場は一昨年落語協会会長に就任し、昨年文化功労者に選ばれるという栄誉を受けた柳家さん喬氏の鼠の穴という演目で、芝浜のように夢から覚めたらめでたしめでたしとなるお話しだ。ところが、この鼠の穴とはいかにも小さなことの話のようだが、ここに登場する舞台は10年以上の歳月と街中火の海になってしまうほどのスケールになる。しかもここに描かれる人間の業の深さは、血を分けた兄弟の話であり小泉八雲の怪談とは違いまるで救いようがない。こんな噺を今乗りに乗っている柳家さん喬氏が演じるとなれば誰もが期待してしまうはずだ。とはいえこれほどの名人ともなれば、観客が身構える間もなく気づいた時にはすっかり噺の世界に引き込まれているのだ。
とはいえこの話、以前柳家権太楼氏が演じられたときにも痛く感動したことを思い出す。その時の噺では登場人物はもっと多かった記憶がある。例えば竹次郎に嫁いだおみつや、商いを陰で支えた香具師の亀蔵などのくだりだ。一応どちらが継承されているか調べてみると柳家さん喬氏の方がスタンダードのようだ。
さて次に登場したのは桂二葉氏で上方らしく見台が置いてあった。確かに今を時めく売れっ子には違いないが、録画の編集とは言え二人の名人に挟まれるのはどれほどのプレッシャーかと思えば、それこそ老婆心というもののようだ。氏はドングリを逆さにしたような表情で観客を淡々と自分の世界に引きずり込んでいた。
さて今回トリになった桃月庵白酒氏だが、私は何故か氏の容姿に触れてしまう。今のご時世では不適切だと思いながらも変な処のスイッチが入ってしまうようだ。今回も功罪上がられた瞬間、氏の頭髪が真っ白のように見え混乱してしまった。というのも以前の研究会で喬太郎氏の白髪に比べてさん喬氏の黒髪がやけに目立っていたことを思い出していたのかもしれない。冷静になってみるとそれは白髪頭というより、色白の面差しという表現が適切なのかもしれない。それがまた先日の正月番組で視た加賀に伝わる白雑煮のふっくらとした餅を連想させてしまった。その上おでこに珍味のくちこのようなものが。くっ付いて見えたのでいよいよ正月気分が盛り上がってしまった。
結局噺が上手い人に上手いですねと言っても当たり前にしか思われないのでつまらない。とはいえ馬鹿が一生懸命になるととんでもない事になってしまうのは、落語も現実の世界も同じようだ。そのため私は噺の事よりまったく関係ない所のスイッチが刺激されてしまうのかもしれない。私の一生懸命は残念なことにさらに可笑しなスイッチを入れてしまったようである。ところで氏は枕の中で吉原について、吉原は日本橋の北側に位置していたので、当時は北国という表現が使われていたと話されていた。このことで頭に浮かんだのは、松尾芭蕉の奥の細道にある「名月や 北国日和 定めなき」という句なのだが、私はこれを名月や吉原日和定めなきとしたらどうだろうかと考えている。こちらについては後ほど独立自尊奥の細道で触れてみたい。