盾つく虫も好き好き
2025年 11月18日 真実は何処

いまTVを見れば日本の総理があたかも有事を招いた様なコメントで溢れている。いつもながらの識者のコメントなのだが、彼らはいずれも一流と言われる学歴を持ち、社会的にも信用に足る肩書を持っている。なるほど話を聞く前からすでに、そんな人のコメントなら偽りなどあるはずがないと思いこむのも無理はない。
とはいえ今回の問題は日本国のみならず他国民の利益にも関わる大変センシティブな問題なので、適当な発言を見過ごすことはできない。さて、今回の事案は政府の見解と、中華人民共和国の認識がまるで異なっていることがこのような混乱の原因となっている。本来マスコミはこのような事案に対し公平な立場で国民により分かり易く事態を解説することが責務だろう。ところが今回AERAデジタルに寄せられた古賀茂明氏のコメントはあまりにも一方的で事実誤認を招く危険性があるため、今回はあえてその記事を紹介させていただく。
さて7日に起きた立憲民主党岡田氏の質問に対して総理の答弁が取り上げられている。ところがその記事にはこの誤解が生まれる原因となる答弁の前提が全く抜け落ちている。これに対し毎日新聞の記事はこれを箇条書きにし明記しているので抜粋してみた。それによると総理は有事と認める前提を3つ挙げている。それは①海上封鎖のために中国軍が武力を行使②米軍が海上封鎖を解くために来援③それを防ごうと武力行使が発生――との条件を提示。この場合は「どう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と明言したとある。要するにここには台湾の主権がどうのこうのという問題には一切触れらていない。つまりここでは中国の海上封鎖により、日本のライフラインが脅かされた場合の答弁と解釈するのが一般的に思えるのだ。ところが古賀氏は敢えてなのか、うっかりミスなのか、ひょっとしてそもそも国会質問など見ていないのか、この点には全く触れずにあたかも台湾の領土問題を政府が有事認定したようにコメントしている。
私は、このコメントを読んで古賀氏があえてこの政府見解を捻じ曲げしているようにしか思えなかった。その理由はこのコメントの中で氏が触れている1972年の日中共同声明を持ち出し、日本政府が台湾について中国政府の領有権を認めているとしているところだ。つまり前述の海上封鎖の前提がないために、総理の発言は日本が台湾の領土問題に言及したように話がすり替えられているのだ。因みにここを深掘れば、日中共同声明はポツダム宣言受諾以上の効力を持つものなのかどうかという疑問が湧いてくる。というのもポツダム宣言は国連が認めた条約なので、このような2国間の共同声明が国際条約の効力を上回るのかどうか判断が難しいのではないだろうか。この点国際問題研究所のコラムによると日中共同声明の内容については「日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」とするとされている。これについても解釈が分かれると思うが、私が感じたのは「中国の立場も充分わかるが、ポツダム宣言第八項は守らないわけにはいかないよね」というものだ。因みにこのポツダム宣言第八項には戦後日本の領有権について記載されているのだが、今回の質問に対し前述のとおり政府は領有権の事など一切触れていない。にもかかわらず、このような領土に関する国際条約をこじつけてくれば、どうしても日本が台湾領土について言及したように受け取らてしまうのだ。
今回このような事実無根の誘導に中国政府はまんまと乗せられてしまった格好になるが、逆に、このような領土問題が国際的に顕在してくれば不利益を被るのは中国政府のように感じてならない。というのもこの問題が長引けば長引くほど世界各国から台湾への注目が集まり、何故台湾の国家承認が認められなくなったのかという疑問に火がつく。そうなれば、国連に対し再考を求める動きが出てこないとも限らないのだ。さらに言えば自国の代表に危害を加えられることを容認できる国など存在するだろうか。これは国際的に人権を尊重しようという動きとはまるで懸け離れた動きであり、国際社会がこれを容認できるはずがない。つまりこのような人権無視が正当化されれば、中国自体が人権無視の国家として捉えられてしまうことになる。今回の事案ではむしろ、このような事案を引き起こした者を速やかに処罰してこそ中華人民共和国の国際的信頼は保たれるのではないだろうか。