今日は好日Vol.2
2023年 6月16日 金融緩和は経済成長を止める?
この言葉が、私のような経済のケの字も知らないものが言った言葉なら許されるかもしれない。ところがこの話は政府の経済諮問会議でのやり取りらしい。というのもyahooニュースから拾った現代ビジネスの記事によると、発言したのは次期ノーベル賞候補でもある大変偉い教授だということだ。
さてこの発言は当然、現在の日銀総裁植田氏に向けての発言だが、おそらく日銀がなかなか金融緩和の路線を変えないことに対してアメリカの大学教授がかみついたということらしい。ここで真っ先に考えてほしいのは経済とはいったい誰のためにあるものかということだ。
つまり経済にはいろんな視点があって当然なことだが、この議論は政府の経済諮問委員会での話で、そうだとすれば日本国民主体の視線で議論が語られなければおかしな議論となる。ではこの教授が言うように日本経済の停滞は、はたして金融緩和によるものなのだろうか、そこで改めて経済に疎い大多数の国民目線で、このアメリカ教授の発言を検証してみたい。
まず初めに日本経済が成長から停滞に向かった分岐点について考えてみたい。この点はあのバブル崩壊だということは、この教授も同じく指摘されていることなので、異論はないだろう。ところで記事によると、この時から日本では金利が下がり続けているために低金利が経済成長を止めていると言わんばかりなのだ。しかしながらこの指摘にはかなりの飛躍がある、というのも、立派な経歴を持たずとも足し算引き算が理解できれば容易に察しがつくのだ。つまりこれまで低金利が続いていたのは日銀が利上げしなければならないほどのインフレがおきなかったからなのである。これについては財務省が掲出するCPIの推移を見れば一目瞭然なのである。
ところでこの時、政府がとった経済政策はやはり緊縮財政の推進と消費税増税だった。さらに政府は経済界に対しても企業の体質改善を強いるようになった。この時巷にあふれた横文字がリストラだった、これを推進するため政府は、企業の成長がなければ国民の雇用は成り立たなくなるというプロパガンダを刷り込んだ、そのため使用者側と対立関係にあった労働組合さえ使用者側と手を握り企業の成長を真っ先に考えるようになり、その結果企業が苦しいといえば賃上げは無抵抗のまま見送られてきた。このようなことが30年間日本がわき目も降らず取り組んできた経済復興なのだ。
話をこの記事に戻すとこの教授にとって金融緩和は、生産性の低い企業を温存させるだけで、日本の企業がグローバル経済に勝ち残っていくためには、お金の流通をさらに引き締めていくことで弱い企業をどんどん淘汰していくことが大切であるということらしい。ここまで聞くといくら何でも寒気を覚えてしまうのだが、世界はともかく日本がこれを受け入れてよいものだろうか、こんな操作を日銀が行ってしまったら経済どころか国民の生命が危険にさらされてしまうはずだ。
確かに、世界中を見渡せば経済の世界とはまさに血まみれのジュラシックパークのように見える、いやもっと単純なアメーバがお互い食い合うことになんの抵抗も感じない弱肉強食の世界のようだ。これに対しそれまでの日本企業にはエコノミックアニマルと揶揄されながらもまるで家族のような一体感があった、そのことは終身雇用という制度に象徴されていた。ところがこれを海外の経済システムに合わせてしまうと、このような企業や個人が、その時まで大切に持っていた社会的モラルまでも捨ててしまったのだ。
因みにバブル崩壊を決定的にしたのは、時の政府が総量規制によって土地関連の取引に規制をかけてしまったためだ。それまで日本の土地は金よりも信用があり、どんな土地でも借金の担保としての絶大な信用があった。ところが、安易な政策でこの信用にひびを入れてしまったのが総量規制というものだ、これにより企業は不動産の担保価値を失ってしまうことによって、銀行の資金をあてにすることが出来なくなってしまった。そのため、万が一に備えてより流動性の高い資産を自前で留保しておく必要性が出てきたのだ。加えて政府の失敗はこればかりではない、この時から法人税が引き下げられる一方、消費税が3%から5%に引き上げられた。このわずかな増税によって、日本経済の安定的な低迷が始まってしまった。
因みにこのわずかな増税がのちの財政にどのような影響を与えたのか調べてみると笑ってしまう、これによって財政は増収どころか景気後退のためにすっかり落ち込んでしまったのである。この政策は政府を火だるまにしただけではすまずに、結局国民丸ごと劫火に投げ込まれてしまったのである、政策の失敗というのはこれほど罪が深い。
ついでにいえば、いまの日本の経済は非常にいびつな形をしている。何故かといえばGDPは相変わらず世界3位を維持しているにもかかわらず、これを個人のGDPにしてみると日本は世界30位を下回っている。このことからいえることは、企業がどれだけ利益を上げようが国民生活は良くなることはない、というのが正しい数字の捉え方ではないだろうか。私はその原因が消費税という仕組みにあるのではないかと思っている。何故なら企業は現在法人税と消費税を納税しているが、企業が節税を考えた場合に賃金を上げて節税しようという選択肢が消費税にはないからだ。一方法人税では社員へ支払う賃金は控除の対象になる。だとすれば、消費税を廃止してその分法人税を上げるだけで企業の負担はほぼ変わらず、企業は節税のためにどんどん賃金を上げるはずなのである。といっても節税になった税収はどこかへ消えてしまうのではなく、結局個人の所得税として納税されることになる。むしろ外資が日本株を保有していくことで日本企業の得た利益がどんどん海外に持ち出されていくことが問題になるのではないだろうか。
不思議なのは海外資産保有高世界一の国が、自国企業への海外投資を何故あてにしなければならないのか理解できないのである、投資はあくまでもビジネスで善意で集まる資金ではない、企業が得た利益は当然株主様のものなのだ。
ちなみに今年は、消費税の増税ともいえるインボイス制度の導入も予定されているそうだが、これによって企業が事務作業に費やす費用の損害はあまり話されていない。私はこのような誰も望まない煩雑で無駄な作業で、必要のない経費が製品に転嫁され、ついては企業の世界的競争力を奪ってしまうことを恐れている。