今日は好日Vol.2
2023年 6月28日 俺の仕事はまだ始まっていない
今年の6月1日財務省から税収が過去最高を更新したという発表があった。この報告に首相は「俺の仕事はまだ始まっていない」と困惑されたのかもしれないが、国民はこの知らせを快く受け止めているだろう。というのも先ほど会期を終えた国会でも話題に上がっていたのは税収の確保と予算の収支が合わないのだそうだ。ならば予算を見直してくれというのが、正直な私の思いだ。実際この政策の審議のために国会では、さらに何億円の経費が費やされてきた。ところがふたを開けてみれば税収は足りないどころか、政府が何もしなくてもどこからか泉のように湧いてきた。
このことに注目すると、政府は防衛予算の1兆円を得るために消費税の増税を検討しているそうなのだが、政府が何もしないでいてくれたおかげで、3年連続で税収は過去最高を記録してきたのである。それよりさらに22年度の税収は最終的に前年度より10兆円も増えて70兆円に達する見込である。これでは増税に血眼になる政府の面目は丸つぶれになるのではないだろうか。それにもまして今年導入しようとしているインボイス制度の根拠すら見当たらなくなるのである。というのもこの導入により政府が見込む税収はせいぜい2500億円と言われている。しかもこの税制で新たなターゲットになるのは、これまで消費税納税を免除されていた年商1000万円以下の小さな事業所である。おそらくターゲットになる企業は諸経費を計算すれば年収400万円ほどのサラリーマンと変わらないか、あるいは社会保障のない分さらに厳しい生活環境にある所得層なのである。はたして今の日本企業で彼らに対して納税の不公平感を持つような企業はいるのだろうか、むしろこれから増える納税のための煩雑な事務作業を思えば、この制度の導入には辟易しているに違いない。
因みに今の日本がこのような税金の増収になる理由は、現在騒がれている円安の効果も大きいだろう。もちろんいろんな立場があるとしても今のドル円相場では3割ほど円安になってしまっていることから、海外輸出を生業とする企業であればまさに恵みの雨なのである。具体的にいえば、アメリカに輸出していた製品の値段を3割値上げしたのと同じ効果がある。さらに現地では他の強豪に比べてダンピングせずとも安値で商品を供給できるので、こんな好条件はほかにないのだ。ところがこの円安を日本の国民ほとんどが快く思っていない、なぜかといえばエネルギーや食料品価格の高騰があり、さらに日本を生産拠点とする中小企業にしてみれば、円安は原材料価格と電気代の高騰でデメリットしかない。つまり円安で潤う企業はほとんどが下請けを抱える大企業で、エネルギー価格や原材料費のしわ寄せを被るのはそのような大企業を支える中小企業なのだ、このような状況下で大企業が下請けの中小企業に対し製品の値上げを許さなかったらどうなるだろうか、このままでは日本の製造業のほとんどが原材料と燃料費の2重苦を味わうことになるのだ。
では一体このことについて政府はどのような見識を持っているのだろうか、確かに高騰するエネルギー価格に対し政府は資金をばら撒くことによって支援をしているつもりのようだが、このような対策では全く将来の展望が持てず、結局金の切れ目が支援の切れ目となる。早速政府は、その限界を9月としているようだが、追加支援も無くなり電気代が高騰すれば政府の立場はかなり危うくなる。
とはいえこのようなことは、素人でも十分予想のつくことで、昨年の円安が騒がれていたあたりから、政府の政策がエネルギーの確保を最優先にするべきだったことは自明の理だったとも思える。私は、この対策として新しいエネルギー産業の推進など政府がリーダーシップを発揮しなければならない場面は数多く存在していたと思っている。たとえば、水素エネルギーを運輸や発電の資源として普及できれば日本は、世界に先駆けてこの分野で最先端の取り組みが出来るはずなのだ。そしてこの取り組みが軌道に乗るまでのつなぎとして、原発の再稼働を進め、緊急性の高い施設や製造業社に低価格で電力供給を行うことだった。このような取り組みによってエネルギー高騰を抑える政策は、技術力に定評のある日本の中小企業に寄り添うことで日本製というブランド価値を守ることが出来るのではないだろうか。
ところでこれほどウハウハの日本経済にもかかわらず国民が好景気を享受できないのは、何故だろうか、このことについては今の総理大臣も過去に述べていたとおり、ようするに富の再分配が出来ていないからだろう。とはいえこの点については、さらにもっと自由競争に任せるべきだという考えもあれば、私のように競争だけでは見失うものが多すぎるという考え方もある。その選択はそれぞれあるにしても日本の伝統的な商業の考え方には、三方好しという考え方がある。商業とは常に当事者以外のことも考えなければ、その商売には未来がないという考え方だ。そう考えれば下請け企業ばかりに負担を負わせる今の商いの仕組みは正しいのだろうかという心配が出てくる。これまで日本製品の信頼性を支えてきたのは、地道な中小企業の努力によるところが大きい。そのためには円安のメリットを直接、受け取ることのできない下請け企業にとって価格転嫁はやむ負えない、このことに対し親会社がどのような対応をしているのか、もっと政府は関心を示さなければならないのではないだろうか。なぜならこのような中小企業と取引したい企業は、日本企業ばかりではないからだ。国益を考えればこのような下請け会社に対し親会社はもとより、政府も一丸となって支援することが必要で、このため親会社が下請け会社への配慮を行った場合については税控除などのインセンティブがあってもしかるべきではないかと思う。
このように海外からしてみれば日本は経済は現在一人勝ちの状態のようにも見えるが、悲しいことに国民一人当たりの収入はアジアの興進国とさほどかわらないのである、このことに日本国民はもっと注目すべきではないだろうか。
私はこのような景気循環の障害が今の税制にあると思っている、つまり法人税を下げて消費税を上げるという税制が景気循環の妨げになっていると思うからだ。このことは、これまでの消費税導入と国民の平均年収の推移を見れば関係性を理解することが出来る。
ところで、これほど日本にとってのメリットがある円安にたいしマスコミは何を警戒しているのだろうか、というのも時々日銀が利上げしないことを問題視するような風潮があるからだ。日銀はアベノミクスの時からインフレ率を2%に定め政策を行ってきた。その指標となっているのは物価の推移というよりは失業率にあるからだ。というのも物価が高くなれば景気循環が起こるのではなく雇用が安定しなければ景気循環は起こらないという大変理にかなった考えに基づいているからだ。
もし仮に日銀が利上げに踏み切れば、間違いなく不動産価格や株価は落ち込むことになり、そのため資金調達が困難になった企業は長期の設備投資を控え、新たな視点に立って企業戦略を模索する余裕すらなくしてしまうだろう。このようにならない為には、利益をより多くの国民に分散させて長期的な信用創造を活性化させていくことが、これからの多様化した経済政策となるのではないかと考えている。