今日は好日Vol.2
2023年 8月5日 アニメよありがとう、そして永遠なれ!
これは昨日私が視たアニメ映画から私が受けた思いだ。何の映画かといえば宮﨑監督の「君たちはどう生きるか」という映画だ。
ところでこの映画はこれまでのジブリ映画とは全く違うところがある、それがコマーシャルなしといういまだかつてない興行手法を採っているところだ。もちろんこれはジブリの新社長鈴木敏夫氏の興行戦略に違いないとは思うが、改めてこの作品に秘められた思いを考えると、宮﨑監督の引退宣言と無関係には思えない。
つまりこの作品はエンターテインメントの視点だけではとらえきれない要素がある。そのような視点から私が最も強く感じているのが、監督のアニメに対する感謝の思いと未来への期待だ。
とはいえ、今回の作品に対する評価は早速両極端出ているようだ。おそらくこれまでの宮﨑監督作品が描いてきた伏線を丁寧に回収していくようなドラマの展開ではなく、映画の展開は唐突で、観客はなにやら置いてきぼりを喰ったような心細さを感じるのかもしれない。確かにこの映画の伏線は、この作品だけでは成立していない、それよりむしろ世界の歴史そのものが、この映画の伏線のように感じるからだ。それは神話の世界でありミレーに象徴される啓蒙思想、ベックリンに象徴される神秘主義などの歴史的流れや、一方でアニメの世界だけに目を向ければ、それとてもジブリ作品だけに留まらずディズニーや手塚治虫の世界まで巻き込んでしまうだろう。私はこの作品にそれらに対するハッキリとしたオマージュを感じているのだ。そこには先輩である高畑勲監督作品に敬意を示すように冒頭の映像が始まることからも窺い知ることが出来る。
つまりこの映画は宮崎駿作品の回想だけに留まらず、アニメの歴史やこれまで映画制作に関わったジブリスッタフ全員への感謝が込められているように感じられるからだ。また、この作品はアニメ界をこれから担うであろう作家に対してもそのオマージュは向けられているのかもしれない。例えば「君の名は」や「すずめの戸締り」を思い浮かべていた方も多いだろう。
このように書くとこの作品は懐古趣味の塊のように感じられるかもしれないが、もちろんそれだけに収まるものではない、というのもこの映画を通して監督の無尽蔵な創造性は常に新鮮な驚きを観客にもたらすからだ。それは晩年の手塚治虫が、体力は衰えても作品のイメージが尽きることは無いと言っていたことを思い出させる。
最後に私が、この映画で特に印象深かったところは、木造建築の効果音や、背景画に見みられる便器の設えや屋外トイレの意外な表現など私の実体験とこの映画の世界を繋いでくれる仕掛に心が躍る。また謎かけのような様々なキャラクターたちにも興味が尽きない、例えば映画ではアオサギのモチーフのように鳥のモチーフが登場してくるが、このモチーフは果たして最初からアオサギだったのだろうか、というのもこのキャラクターの嘴は途中に出てくる絵では赤く彩色されているようにも見えるからだ。アオサギにはそのような特徴がないことから、それは初めトキというペリカン目の鳥だったのではないだろうか、そうだとすれば監督がこのキャラクターに込めようとした意味とは何か・・・きっと「君たちはどう生きるか」の問いに繋がっているのではないだろうか。