今日は好日Vol.2
2023年 8月27日 役者バカの映画
とはいえ何をもって役者バカを定義するのかわからないが、私は常軌を逸した役者による仕事への情熱を役者バカと譬えるのではないかと思っている。そんな役者バカを象徴する例に挙げられるのが、名優故松田優作氏が役作りを考えるために、風呂に入りながらもそのアイデアが外に漏れ出ないように耳栓をして湯舟に浸かったという逸話がある。このような役者の人知れぬ努力が役者の演技に重厚感を与えているのだtと思っているのだが、先日観た映画はさらに役者の超人的な魂を私に見せつけてくれた。
それは「異動辞令は音楽隊」という内田英二監督の映画だった。何が超人的魂かといえば、映画のタイトルにあるようにこの映画は警察の音楽隊をテーマにした映画なのだが、この映画はすべての演奏シーンを吹き替えなしで撮ったのだそうだ。そしてその主役が引っ張りだこの俳優阿部寛で、彼はこの役で一番でかい音のするドラムスを担当している。つまり一番誤魔化しのきかないシビアな役なのである。このことを知らずに漫然と映画を楽しんでいた私は、後からこの映画のすさまじさを思い返している。
というのも、どんな役にでもなり切れることが役者の使命であっても、実際に演奏して観客を喜ばせるとでは全く次元の違う話ではないだろうか。こんなことを知らずに映画を視ていた私はこの映画のドラムシーンに嵐を呼ぶ男の裕次郎を重ねたりして楽しんでいた、「そういや裕次郎は、ドラムを叩きながらセリフを喋っていたよな」ところが、後で調べるとこれとてほぼアテレコの世界だった。
私はこの映画を視るまで、音楽家の演奏シーンといえば「のだめカンタービレ」で千秋演じる玉木宏氏を、彼は本当の音楽家だと思い込んでいた。しかもその後これが彼の演技だったと聞いてさらに驚いていたくらいだ。ところが先日観た異動辞令は音楽隊という映画では役者は本物の演奏家であることを要求され、しかも役者はみごとにそれに答えていたのである。つまりあれは本物の役者バカが演奏するインザムードであり、その結果がもたらした感動のフィナーレだったのである。