今日は好日Vol.2
2023年 9月28年 ちりとてちん
先ほど今月初めに放送されていた落語研究会の録画を視ていたが、そこで13年前に放送された朝ドラ「ちりとてちん」を思い出した。
たしかに落語の世界に飛び込む女性噺家(貫地谷しほり氏)をテーマにしたドラマなので落語を視て思い出すのは不思議ではないが、急にあのドラマが浮かんできたのは、落語研究会に初めて登場する桂吉防氏が、見台を扇子で小気味よく打ち鳴らしながら「その道中の陽気なこと」というセリフを聞いて、あのドラマで何度も耳にしていた故渡瀬恒彦氏のセリフを思い出していたからだ。
この当時の私は上方も関東も落語の話し方に違いがあるとは知らなかった。違いがあるとすれば、米朝か小さんかぐらいのもので、関西弁か江戸弁かの違いにしか思っていなかったのだ。
ところがこのドラマで初めて私は上方落語では見台を使うということを知ることが出来たのだ。そんなドラマの中で落語界の四天王、徒然亭草若役を務めたのが今は亡き渡瀬恒彦氏だった。その十八番が愛宕山で高座の場面では何度も「その道中の陽気なこと」というフレーズが出てきた。そのセリフを桂吉防氏が話すのを聞いてちりとてちんというドラマが蘇ってきたのだ。因みにこのドラマでプロの噺家である桂吉弥氏が徒然亭草原という兄弟子役を勤めていた。この時俳優の青木崇高氏がその弟弟子草々役として登場していたが、その存在感はこのプロの噺家を前にしても霞むことはなかった。
ところで、今回の落語研究会に登場した桂吉防氏はれっきとした桂吉弥氏の弟弟子なので、私はなおさらドラマとの繋がりを強く感じていたのだ。しかも次に続く瀧川鯉昇氏の演目「てれすこ」だが、私の記憶では人形劇南総里見八犬伝で犬山道雪がすてれんぎょについて語った回があったと記憶している。ここでも曲亭馬琴愛するヒロイン寿恵との繋がりを感じていたのだ。こんなことから、この回の落語研究会は朝ドラ繋がりなのかと思っていたら、次に登場した立川生志氏の演目は、私の期待通りあの「愛宕山」だった。
とはいえ立川といえば関東の噺家一門なので見台やお囃子という賑やかな演出はなかった。このように微妙な違いを感じて、今回あらためて上方と関東の落語を続けて聞き比べてみると、話のテンポに微妙な違いを感じることが出来た。どのような違いかといえば、私には関西のテンポは前のめりで、どちらかといえば立て板に水という印象がしっくりとくる。この点桂吉防氏の小気味よいテンポや声の張りはまさしく上方そのもののように感じた。ところがそのあとに登場した瀧川鯉昇氏になると、それとは反対にこれはまさに間の芸と言えるだろう。つまり前のめりのテンポどころか、退いては返す波のようなテンポを感じるのだ。
そして番組のとりは柳谷喬太郎氏の登場となった、その芸はさすがと言うほかない。たいがい創作落語の得意な噺家と古典落語の得意な噺家では身にまとう雰囲気というか、その個性には独特の色が付きまとってしまう。ところが、この噺家の場合はそのいずれの色もたちまち自分色に染めあげてしまうのだ。
ところでここまで朝ドラと今回の落語研究会の繋がりついて話していたつもりだったが、残念なことに最後の最後に話が繋がらなくなってしまった。
それもそのはず、最後の演目は「転宅」だった。