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今日は好日Vol.2

2024年1月5日gallery,ようこそ,自作俳句絵画 無意識

2023年 12月15日 心より出でて形に入り

形より出でて心に至るという言葉がある、これは能を極めた世阿弥の言葉だそうだ。現代人が能楽という言葉を聞くとなにやら下世話な世界から隔絶された高尚な世界と敷居を高く感じてしまうが、江戸時代までは能楽とは呼ばず猿楽と呼んでいたそうだ。つまり、どちらかといえば狂言のもつ笑うということに軸足を置いた芸能のようだ。

ところで日本の古典芸能は、この形というものに重点を置いている。では形とは何かといえば、恐らくそれは天才が生み出した芸能をコピーすることではないだろうか。芸能はある日突然天才によってこの世に生まれて来る、とはいえその芸を数多くの人に見てもらうためには生理的な限界がある。

そこで取り入れられたのが徹底した芸の複製だ。私はこれが形というものではないかと考えている。そしてこの形は複製を重ねるうちに時代を経て自然と進化してゆく、私はこの進化こそ伝統芸能の持つ力強さではないかと思っている。

というのも昨晩先日放送された新作歌舞伎のTV番組の視聴を勧められて、私はその録画を試聴していた。それまでの私は、歌舞伎を見に行く世代といえば私のようなグレイからホワイトカラーの人たちの頭髪を思い浮かべていた。ところが、会場の入り口に並ぶお客さんの頭髪は一様にブラックだった。偶然昨日は忠臣蔵などいずれ消えてなくなるのではなどと傷心の投稿だったが、意外にも歌舞伎ファンはすでに世代交代に成功していたようだ。

というのも番組で取り上げられた演目は私が子供の頃視ていたアニメのルパン三世でルパンをラブリンこと片岡愛之助氏、石川五右衛門を尾上松也氏さらに敵役の銭形警部に香川照之改め市川中車氏が務めている。配役を聞くだけで心のテンションが上がってしまうが、番組では舞台を作り上げている裏方さんの様子も紹介されていて、こんな舞台を実際に鑑賞できる方はさぞや幸せな方なのだろうと思わせる。きっとこれが切っ掛けで新たな歌舞伎ファンが生まれてくるに違いない。

ところで番組で知ったがルパン三世と歌舞伎はもともとご縁があったようだ。石川五右衛門など配役もから漫画からも感じることがあったが、息子さんの話によると実際に作者のモンキーパンチ氏は無類の歌舞伎ファンだったそうだ。実際アニメのルパン三世第55話「花吹雪 謎の5人衆」という回があり歌舞伎の白波5人男をオマージュしていたのを覚えている。これほど好きだった歌舞伎でルパン三世が現代の人気役者によって、しかも本物の舞台装置で演じられることなど天国のモンキーパンチ氏は想像できただろうか。

とかく芸能の世界は才能がものをいう世界と言われるが、日本人はこの芸能に形という概念を持ち込んだ。つまりフレームを壊すことだけが芸能ではなくて、フレームに納まることで品質と永続性を獲得することを目指すのだ。そしてまたその形を壊そうとする才能がいずれ生まれて来るはずだ。

因みに「心より出でて形に入り 形より出でて心にいる」という言葉は世阿弥が芸能に求めた境地とされるが、恐らくそのもとになったのは道元禅師の言葉ではないだろうか、

こだわりを捨て形に身を任せることで、さらに大きな世界に委ねることが出来る。そういえば型破りな作風の織部焼職人も形が命だと言っていた。