今日は好日Vol.2
2023年 12月26日 傑作
この年で怪獣映画かと笑われるかもしれないが、歳のことで言えばゴジラが1954年生まれなので、ゴジラ映画はむしろ私の大先輩だ。しかも今でも世界中に根強いファンを持ち、最近でもシンゴジラが誕生したばかりかと思ったら、今度は元祖の生まれる以前のお話なのだそうだ。
ところで、このゴジラ映画の生みの親である円谷英二監督は怪獣やウルトラマンを世に出す以前から、特撮という最新技術を戦争中から積極的に映画の世界に取り入れていた。というのも1942年に撮影されたハワイマレー沖海戦ではあまりにも精巧なジオラマを使い特撮を行った為にGHQからスパイ容疑を掛けられたという逸話が残っている。つまり円谷監督の目指す特撮技術は当事から世界の最先端を目指していたのだ。
それから80年を経て日本の特撮はフィルム映像の合成からCGも多用するVFXというデジタル技術による世界的流れに変遷してきた。このようなデジタル技術だけを見れば、作り込みの完成度などやはりハリウッド映画が先んじていた感がある。私もこのような差は東洋美術と西洋美術の発達の違いであり、その差は埋めることのできない溝のようにも感じていた。
さてそのような思いを潜在的に持ちながら臨む怪獣映画は、確かにかつてのノスタルジーなのかもしれない。というのも私が年の瀬に映画館まで足を運んだのは、震電という幻の戦闘機がどんなふうに再現されるのか、重巡高雄が駆逐艦雪風がというミリオタ心がくすぐられてしまったからかもしれない。それについてこの映画は私に潜むオタ心を充分以上に満たしてくれた。たとえば93式13ミリ機銃の水平射撃で機雷の掃海をするなど、これまでのゴジラ映画に誰が期待しただろうか。
そればかりではない重巡高雄や幻の五式中戦車の斉射シーンなどありえへんシチュエーションがこの映画にはふんだんに盛り込まれていて、こんなことを映画に盛り込もうとする山崎貢監督の情熱は受け狙いの範疇を遥かに超えている。それに合わせVFX技術は異常な進化を遂げてしまったとは言えないだろうか。いったい雪風のデッキから覗くあの排煙の画像はどのようにして生まれたものなのか単純な煙のマッピング技術ではありえないほどの自然さで私にはこれがVFX技術の最先端のようにも感じた。
ところでこのような技術的なことばかり書いているとこの映画は高齢のオタクが喜ぶ怪獣映画なのか、といえばそれではこの映画があまりにももったいないのだ。これは見てのお楽しみと言えるものだが、以外にもこの映画はしっかりしたメッセージをもち純粋な人間ドラマとしても成立できるほどストーリーや場面展開が練り込まれている。
因みにこの映画の主演は朝ドラ らんまんの主人公を務めていた神木氏と浜辺氏のカップルで息の合う演技はすでに定評のあるところだが、この映画は架空の主人公、架空の出来事でその演技は役者の想像力に掛かっている。しかもこの映画には単なるヒューマンドラマを超えた強いメッセージ性を私は感じている、この映画はその点でも成功を収めたゴジラ映画の傑作と言えるのではないだろうか。
このメッセージとは現在の日本が直面している重大な問題とも重なるそんな切羽詰まった思いを私はこの映画に感じるのだ。この点については今、日本の将来と真剣に向き合っている方々にも是非鑑賞していただきたい映画だと思っている。