彼岸旅行
不可思議な出来事
しばらくすると牛のよだれは収まったようだった。私は牛の背中に揺られながら、ぼんやりと空を見上げていた。気が付くと、私たちを乗せた牛は丘を登っているようだった。牛は丘の緩い坂を一歩一歩踏みしめるように登っていた。あたりを見て解ったが、牛はすでに結構な高さまで丘を登ってきているようだった。丘の頂上まではまだまだ道が続いていた。
「そういえば今は何時頃だろう」私は急に時間が気になりだし、腕時計を見ると時計の針は11時を指していた。しかも、日付は9月の22日、「変だ、時計が止まってしまったのか、いやそんなことはない、時計はちゃんと動いている。確か、ここに来たのが9月22日の晩のはずで、私は翌日の勤務に備えて早めに床に就こうとして、時計も腕から外していたはずだった。ところが今見ると腕には腕時計がしっかりはめられている。私は、もう一度自分の記憶を辿って今何が起こっているのか理解しようと試みた。
確か、あの時どこからともなく声がして、私は何の気なく部屋のドアを開けてしまった。声に導かれるままドアの外に出るとあたりは真っ暗で、そのうち辺りが白んでくると牛が動き出した。気が付くと私たちを乗せた牛は野原を進んいた。あれからだいぶ時間がたっているはずなので、やはり時計は次の日の昼近くになっていてもおかしくないのだ。
私は、もう一度祈る気持ちで時計を見た。何かの間違いを期待したが、残念ながら期待は裏切られた。それもそのはずで、この時計は私が身に着けてから時間が狂ったことは一度もなかった。何しろソーラパネルの電波時計なので電池切れも無ければ一時的に時計に狂いが出ても、電波ですぐに補正される仕組みだ。仕方が無いので私は、太陽の位置でおおよその時間を知ろうとしたのだが驚いてしまった。「わからない、今、太陽がどの位置なのか、空のどの方向を向いても太陽が見つからないのだ。」私は気を取り直して、影を探してみたのだが、それも無駄なことだった。私はいったい異次元の世界にでも迷い込んでしまったのだろうか「影が、どこにも見当たらないというのはどういう事だ」