日々これ切実
2025年 5月17日 山下清とは
今年山下清生誕100年を記念した展覧会が北海道立函館美術館で開催されている。お花見の時期も終わり昨日辺りはそれほど混まないだろうと思っていたが、それは私の見当違いだった。ところで、山下清が今でもこれほど親しまれている理由に映画やドラマの影響なしに語ることは出来ないだろう。そしてその影響は半世紀を超えている。例えば氏のイメージをどの俳優に重ね合わせるかによって、受けてのジェネレーションが変わってくる。
具体的に私の場合は、映画からの印象が強く山下清といえば「裸の大将放浪記」に登場していた小林桂樹氏を思い浮かべてしまうのだ。とはいえ日本のお茶の間まで山下清人気が広がったのは1980年のテレビドラマ裸の大将を演じた芦谷雁之助氏のイメージが強いだろう。その人気がどれほどかといえば、放送終了後もその人気は衰えず、2007年から放送された塚地武雅氏の裸の大将も毎回10%以上の視聴率を叩きだす人気番組となっていた。
さて、今回の展覧会は山下清の作品や実物の遺品を通して、等身大の山下清に触れる貴重な時間を過ごすことが出来る。私がこの展覧会から受けた山下清像は、卓越したデザイン性や色彩感覚にある。というのも展示にはちぎり絵の他にペン画、油彩画、水彩画、陶器の絵付けなどの多様なジャンルの作品からその天才性を理解することが出来るからだ。しかもその才能は救護施設に身を寄せていた15歳の時にみいだされ、その評価は安井曾太郎をはじめとする画壇の重鎮からも注目されていたそうだ。さてドラマといえば今放送されている朝ドラ「あんぱん」のやなせたかし氏の生きた時代とも重なっている。たとえば救護施設での生活を描いたちぎり絵には布団を並べて先生とお休みの礼を交わす場面が描かれている。ここでは子供たちは整列して先生に挙手による礼を交わしているのだが、まるでドラマの黒井先生がいるようだと思ってしまった。また山下清は物事を兵隊の階級に例えることが癖だったそうだ。だからといって氏に軍国主義者のレッテル貼ることは物の本質を見失う。というのも、展示にも示されているが氏は常に命の尊さを訴えられているからだ。
とはいえ氏の作品が何故ここまで多くの人に好かれるのか、改めて私がこの展示から強く感じたことは、氏は自分の思いに何ら飾りが無いということだ。これに関して展示されている氏の文章から、そのことを読み取ることが出来る。中でも私が特に印象深く感じたのは、食事をもらおうと飛び込んだ家で、停電を理由に食事の提供を断られたことなどをとても恨みがましく書かれている。またヨーロッパ旅行中、至るところで見掛ける彫像が皆裸なことに驚き、生きている人は皆裸を恥ずかしがるのにと不思議がっているところなど、これは一見微笑ましい場面にも感じるが、それとは逆に世間に向けられた鋭い洞察のようにも感じられる。これなど普段の生活で世間体を気にするあまり、何を言わんとしているのか判然としない我々への強烈な皮肉のようにも感じてしまうのだ。さてここで私が何を言いたいのかといえば、山下清の魅力は、ありのままの真実に触れる喜びにあるという思いだ。