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彼岸旅行

2022年8月21日ようこそ,ファンタジー

山ブドウ

 暫くすると、また周りの様子が変わってきた。巨木の茂る針葉樹の森から、栗や山ブドウのなる広葉樹の森へと景色が変わってきた。木々の背丈が低くなったせいか、先ほどより周りがずいぶん明るくなってきた。よく観ると目の前に山ブドウが実を付けていたので、私はさっそく牛を止めて角から外へはい出した。そして思いっきり外の空気を吸い込むと、ひんやりとした空気が鼻腔を通り、わずかに山ブドウの甘酸っぱい香りを感じることが出来た。そのあとすぐにイトも角の中から外に出て来た。そして思い切り縮こまった手足を伸ばすと、長い時間同じ姿勢で体が凝ってしまったらしく、体のあちこちを伸ばすたびにうめき声が漏れてその声が年寄りのようで、声がするたび可笑しかった。

 

 私はさっそく目の前にある山ブドウの実を人房つまんでみた。きっと酸っぱいに違いなかったが、のどが渇いていたのでためらわず口に運んだ。ところがその山ブドウの実は、予想に反して甘かった。すぐに私は新しいブドウの房を、もぎ取ってイトに渡そうとしたが、イトは自分の手で、直接木からブドウの房を取りたくて、すぐに受取るのを拒んでいた。

残念なことに、イトがブドウの房に手を伸ばしても背丈が足りず、しぶしぶ諦めて私の手からブドウを受取った。自然の森から直接食料を手にしたのはこれが初めてらしく、しげしげとブドウの形を眺めながら、大事そうにブドウをほおばっていた。すると見る見るうちにイトの手や口の周りが赤紫に染まってとても野性的な形相になった。

 

 「もののけ姫のようだね」私はイトが喜ぶかと思ってアニメのキャラクターに例えたが、イトは先ほどと同じように全く無反応だった。きっとイトの親は躾けが厳しくて、あまりテレビを見せないのだろうか。でも、滝はテレビで見たと言っていたので、そうとも言えない。

私はイトの身の上が知りたくなって食い下がった。今度は目の前でブドウの蔓が絡まってトンネルのようになっていたので、「きっとこれからトトロに会えるかもしれないよ」と聞いてみた。「トトロって何」私は、イトから予想外の答えが返ってきたので、驚きのあまり黙り込んでしまった。

すると1本の長い蔓が木の枝からぶら下がっていて、牛の背中をかすめていった。それを見たイトが、口元に手を添え「アーアーアー」私も同じポーズで叫んだ。「ターザンに逢えるかな」とイトに向かって聞いてみた。「会いたいね」すぐに答えが返ってきた。私の悪乗りは続いた。「ワーオ、ワーオ、、ワオー」「ババンババンボバンババン」イトがすかさず返した。狼少年ケンだね。私は調子に乗って「およびでない。こりゃまた失礼いたしました」といって体を揺すると、イトが笑い転げた。私は目の前で起こることを素直に受け入れようと心に決めた。

 

 

 

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Posted by makotoazuma