彼岸旅行
答を求めて
つまり、光源というものが見つからないのだ。確かに空のどこを向いてもまぶしくならないはずだった。それでは、周りが昼間のように明るく感じるのは、いったいなぜなのか。朝は真っ暗闇で日が射して明るくなってきたようだったが、それはお日様が昇ったのではなかったのか。よっほど私が慌てた様子だったのか、気が付くとイトが、隣で心配そうに私の顔をのぞき込んでいた。実はこの時点で、私は一つの仮説を考えていたのだが、確証を得るためには、検証が必要だった。私はひそかに検証のチャンスを窺っていた。
とその時、急に牛が歩みを止めた、牛はそのまま頭を下げてじっと動かない。イトが心配そうに私に尋ねた。「牛どうなったの」私はイトにすぐに答えを返した。「心配ない、牛は寝てるだけだよ。そうだ、牛が寝ている間に、もっと頭の近くに行ってみないか」私たちは、牛を刺激しないように、そっと牛のうなじを頭に向かって進んだ。牛は頭を下げたままだったので、毛の生えた巨大な滑り台の上を、四つ這いになりながら、頭に向かって降りてゆくような恰好だ。
頭に近づくと巨大な耳が、せわしなく空を切るのがわかった。眠っていても警戒を怠らないところが、やはり草食獣らしいところだった。私たちは牛の頭に達して巨大な角を眺めていたが、その時私は、とんでもないことを思いついてしまった。私はその思いつきを試すことに躊躇しなかった。私は思いを込めてジャケットのポケットに手を突っ込んでみた。これで先ほど検証してみたかったことが確証に変わっていた。私はにやりと顔がほころぶのを感じた。
私の手にはいつの間にか手のひらほどのナイフが握られていた。私は巨大な牛の角にしがみ付くと、その角にナイフを突き立てた。角にはやすやすと、ナイフを突き刺すことが出来た。牛の角は中が空洞になっていて、切り抜いた断片が角の内側に落ちるようにナイフを斜めに滑らせた。私は自分の腰の幅に合わせて楕円形に切り抜くと、そのまま足で断片を角の内側に押し込んだ。
角の中を覗くと、中は大人二人が腹ばいになって入れるくらいのスペースがあった。私は、角の中に入って内側から小さな覗き穴をあちこちに開けてイトを中に招き入れた。そして先ほど切り抜いた断片でしかり穴を塞いでしまった。少し息苦しい感はあるものの、この覗き窓からどんな景色が見えるのか期待で胸が躍った。