新日本を護るために
2025年 1月7日 どこまで捨て身なのか
先ほど久しぶりにネットを覗くまでは、新年を迎え心機一転と思ったのだが、このようなタイトルの記事を見つけて正月早々悶々としている。
「円安が実質賃金の上昇に歯止め」「日本はずっと安売りバーゲン」石破政権が植田日銀総裁の背中を押すべき理由
配信浜田 宏一(はまだ・こういち) イェール大学名誉教授 プレジデントオンライン
このような記事を書く方は何を目的に書かれているのか本当に知りたくなる。この記事は昨年の12月13日に発信元の雑誌に掲載された記事らしいのだが、問題は何故今日の日付でこのような配信があったのかと言う事なのだ。この記事を読めば、トランプ政権誕生前に日銀に対して何とか金利を上げさせたいという思惑を感じてしまうのだが、そうすることによってこの雑誌社には何のメリットがもたらされるのだろうか。
ところで昨年の暮れ日銀植田総裁は追加の利上げについて様子見の立場を表明した。このことについてロイターの記事では、 国際通貨基金(IMF)のコザック報道官は12月19日、今週の米連邦準備理事会(FRB)による「タカ派的な」利下げと日銀の利上げ見送りについて、ともに「適切」という認識を示している。とある、つまりこのことは他の主要国が経済的に大変な状況にあることから、金利上昇についてはIMFの中でも警戒感が高まっている証拠として理解できる。さらにIMFが神経を尖らせているのはトランプ次期大統領がFRBの廃止を呼びかけていたことにも繋がっているのかもしれない。このようなことから、急激な金利上昇が各国経済に与える影響をトランプ次期大統領は注視していることは間違いない。
さて、この記事のタイトルにある「円安が実質賃金の上昇に歯止め」という根拠はどこにあるのだろうか、
上の図は賃金の推移、下為替の推移
このグラフは賃金の推移と為替の推移を示したものだが、これを見ただけでは円高になると賃金が上がっているように見えるのは私だけだろうか。
さらにこの記事で円安はバーゲンセールという言葉が使われていたので、この言葉にそのまま乗っかるとアメリカファーストを公約に掲げるトランプ政権はこのようなバーゲンセールを快く思うのかといえば、そんなはずはないと私は思うのだ。だとすればこのようなバーゲンセールはゆくゆくアメリカから是正するように要望が来るはずで、さもなくば関税を引き上げるということになるのは誰でも予想がつく。
さてこの記事には、ちゃんと賃金は実質賃金という言葉が付ている。つまり、賃金が上がっても物価が上がれば賃金は上がらないのも一緒ということなのだが、今の日本経済は賃金も上がらない上に物価だけが高騰するという事態で、以前日銀総裁の指摘したスタグフレーションそのもののように感じる。つまりこれまでの常識であれば円安は賃金上昇に繋がってきたのだが、現在の日本経済ではそうなっていないのだ。つまりお金の流れのどこかに滞りがあるとしか言えないだろう。
そのことで、もう一度賃金の推移を見直してみると、賃金上昇を迎えた途端その勢いが、ある節目ごとに頭打ちになっていることに気付く、その節目が何故か消費税率の引き上げと重なっているのだ。今回さらに気になるところは、ここ2年間はその消費税率の見直しがないにもかかわらず個人の収入が減少していることだ。私はここに個人が許容できる徴税の限界があったのではないかと心配になっている。というのも今朝ほどのワールドニュースで仕事に対する若い人のモチベーションがEU諸国に比べても日本は低いというアンケート結果があり、日本の若者がすでに就労について希望を失っているのではないかと思うからだ。
このような状況の中で、もしこの記事にあるように、利上げが行われればそれは賃金上昇の前に雇用自体が失しなわれてしまうことにならないだろうか。というのも、同じような環境にある西側主要国ではすでに主要産業で雇用問題が現実化しているからだ。
ところで為替の問題といえば日本では主にドル円の話になる、このことは両国の経常収支を基に検討されるべきことと思うが、トランプ次期大統領が望む収支のバランスとは、両国間の経常収支バランスというよりは具体的品目に対する収支に重きが置かれるのではないかと思われる。というのも経常収支で1次所得が黒字というのはウォール街での黒字であり、次期政権が公約に掲げるアメリカ産業の復興には直接的ではないからだ。そのために日本に出来ることは日本にアメリカ製品の需要を拡大させることだが、国民の手取りが低いままでは、日本はさほど期待できる市場とはならないに違いない。要するにこれから互いの国が魅力ある市場となるためには、まずは日本国民の収入を増やすしか方法はないと思うのだ。金利と賃金という話題についつられて記事を書いてしまったが、賃金上昇を望むことが雑誌の目的であれば、税制の見直しについても触れて欲しいところだ。とはいえプレジデントという雑誌は知名度の高い雑誌だと思っているので、金利が上がれば賃金が上がるのかどうか、今金利が上がれば世の中でどれほど困る人が出るのかもう一度考えて欲しいものである。もしこのような記事で読者の雇用が危険にさらされることがあれば、雑誌の売れ行きに響かないのか心配になってしまう。それともこれは肉を切られせて骨を断つという捨て身の戦法なのだろうか。