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彼岸旅行

2022年8月21日ようこそ,ファンタジー

足元

 地面に降り立つとその場の険しさに、がくぜんとした。地面から木の根がむき出しになり辺り一面で絡み合っていた。近づいてみるとその根は太く、近くで見ると想像以上に地面はでこぼこだった。

 

 これでは4つの子供に歩かせるには厳しすぎる。先に進むために私は、イトを背負うことにした。こんな険しい道は、大人でもしり込みするはずだ、何しろ両足だけで前に進むことは危険にさえ思えた。

腰をかがめて何かにつかまりながら進まなければ、姿勢を保つことは難しそうだった。私はイトを背負いながらこの道を進むためには、私がとっさに両手を離してもイトが、体から離れることのないようにする工夫が必要に思えた。

そこで私はイトを背負ったまま、その上から自分のジャケットを羽織った。それからそのままジャケットの袖をイトの脇からとおし、自分の胸のあたりで結んだ。さらにジャケットの裾を自分の履いているジーンズの中に押し込んでイトの足がジャケットの両脇から出るようにした。イトは12,3キロほどの体重なので、これでなんとか収まりそうだった。

 

 「よっしゃ」私は、自分に気合を入れるつもりで叫んだ。すると背中からイトもそれに合わせた。「よっしゃ」私は、慎重に絡み合う木の根の上を進んだ。私は、なるべく根が密集して、手で掴まりながら進めるようなところを選びつつ、水音のする方を目指した。

 

 足元を見るとその先は、土が流されて大きな穴が開いていた。その穴を塞ぐように絡まった木の根が覆っている。私は木の根の隙間から穴の深さを確かめようとしたが、あまりの深さに確かめることさえできなかった。こんなところは自分一人だったらとっくに諦めて引返すところだが、どうしたことか、今の私はイトの願いをどうしても叶えたいという使命感にも似た強い思いに自分の背中を押されていた。

 

 荒れた道はいよいよ険しさを増していた。それにつれて私の心も心細さが増していった。そんな心細さが頂点に達しようとしたころ、私たちはやっと土で覆われた地面にたどり着くことが出来た。そこは、窪地になっていて周りの様子は分からなかったが、とりあえず私は胸をなでおろした。

さっそく辺りを窺うと、だいぶ水辺に近いのか、すぐ近くから水音が聞こえていた。さらには辺りの空気は湿気を含みひんやりとしていることから、辺りに水辺があることは間違いなかった。

それでも自分の目でそのことを確認するためには、その窪地から這い出なければならなかった。とりあえず私は、その辺に突き出た木の根に手を架けながら、窪地から這いでるため藪をかき分けると目の前に細い川が流れていた。川上をみると山肌に水煙が上がっているのがわかった。私は藪からはい出し、水煙の上がっている方に向かった、蛇行する川を上ると地面を響かす「ゴー」という滝の音がしてきた。川面に張り出した木の枝をよけながら川を上ると突如地面が平らになり、川の流れが緩くなった。正面には切り立った崖から水煙が上がっていた。「滝だ」とうとう目の前に滝が現れた。私は、イトを背負ったまま滝壺に向かった。そこには14,5メートルほどの高さから滝が勢いよく落ちていた。今度は背中で足をばたつかせながらイトが叫んだ。「滝だ、滝だ」私も興奮を抑えきれず「もっと先まで行ってみよう」声をかけながら、河原の大きな石の上を一つ一つ超えていった。

 

ようやく私たちは滝壺のすぐそばに見える、玉砂利の敷き詰められた、平らかなところに着いた。そこには水しぶきが容赦なく降りかかていた。私はイトの喜ぶ顔が見たくて、飛沫の掛からないところでイトを下ろそうとした。イトを下ろすところを見定めようと振り返ると。背中でイトの声がした「やっと、滝が見れたよ。ありがと」その声はどことなく大人びていて、淋しそうな声だった。と思った瞬間、背中が急に軽くなった。私は、今自分に起こたことが理解できるまで、その場に呆然と立ち尽くしていた。しばらくの間が過ぎると、また、さっきの囁きが聞こえた。今度は背中ではなく、自分の胸の内から聞こえたきがした。

「イトが消えた」今までイトを支えていた私のジャケットが、私の腰に寄る辺なくまとわりついていた。

 

ようこそ,ファンタジー

Posted by makotoazuma