令和 あくび指南
2024年 1月22日 2399日の創造
昨年の暮れ宮﨑駿監督のドキュメンタリー番組が昨年の12月16日に地上波で放送された。内容は君たちはどう生きるかの7年に渡る密着取材という大変な番組で、この映画を観た人はいろいろ気になるところだと思う。というのもこの映画はやはり謎が多く、YouTubeでも解説動画がいまだに溢れかえっている。それほど宮﨑作品には人を引き付ける魔力があるからだろう、また、このことは何も日本に限っての出来事ではなく世界中で愛されいるのだ。特にフランスでは国を挙げての取り組みが始まっている。というのもユニセフに登録されたフランスの無形文化財であるタピスリーは、その復興事業のための取り組みとして、宮﨑作品が図案として採用された。
この取り組みは、最終的に5つの宮﨑作品から、タイトルごとに場面を選び巨大なタピスリーを制作するという大事業だ。すでに「もののけ姫」昨年は「千と千尋の神隠し」の2作品の完成が発表されており、残りは今年を含めあと3作品となる。ところでタピスリーといえば風の谷のナウシカでは物語を構成する大切なモチーフとなっている。「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」という大ババのセリフが登場するシーンやナウシカの父ジルの寝室にも登場している。というのもタピスリーには風の谷にとっての大切な言い伝えが込められているという設定なのだ。このようにもともとタピスリーには膨大な時間にさらされながらも後世に大切なメッセージを伝えていくという装飾を超えた役割があるのだ。その視点で公表された図案を見るとフランス人が後世に伝えようとしているメッセージを改めて感じることが出来る。
とはいえ対する宮﨑監督のフランス文化に対するリスペクトも相当なものがある。というのもこのドキュメンタリーには何故か頻繁にシトロエン2CVという自家用車が登場してきて、そこには宮﨑監督直々の運転シーンが何度も登場してくるのだ。
そのようなシーンを何度も見ている内に、監督自らコラムシフトをガチャガチャ動かしながらハンドルを切る様子は、まるで紅の豚に出てくるポルコが自慢の愛機を操る姿と重なってくる。きっとセリフがあるとすれば「走れない豚はただの豚だ、ガハハハハ ハ」だろうか。
とはいえ、このリスペクトは表面的な憧れだけに留まらず「君たちはどう生きるか」という作品の根底に流れる思想にもなっているはずだ。たとえばこのタイトルとなった小説は岩波書店と強いかかわりがあるのだが、この書店のイメージキャラクターはジャンジャックミレーの種まく人がモチーフになっている。つまり啓蒙思想の種をまくことが岩波書店の目指すところなのだろう。因みにこの映画の時代背景は太平洋戦争さなかの空襲から始まるが、戦前の日本ではこのような啓蒙思想を積極的に学ぼうとする気風があった。そのため戦前には、後に敵対することになる中国からも孫文や蒋介石など後の指導者がわざわざ日本に留学してまでこのような学問を学んでいたのである。
また、実際に映画に採用されたシーンにあったかどうか思い出せないが、この番組では大叔父と呼ばれる存在が、世界の秩序を司る存在として描かれている。なんでも大叔父とは宮﨑監督が敬愛する故高畑勲氏を表現しているとのことだ。この大叔父は謎の洋館に住み巨大な天球技の中心から望遠鏡をのぞき込み、しきりに何かを探しているというシーンがあった。私はこのシーンから自己を疑うことから始まる真理の探究を表しているのではないかと感じた。つまりこのシーンはフランスの偉大な哲学者デカルトをオマージュした表現ではなかったのだろうか。などと番組を視ながら余計なことを考えていたらどんどん楽しくなってきた。因みに番組の最後に登場する宮﨑監督の描いた巨神兵は何を意味するのだろうか。詳細に描かれた巨神兵はまともな環境ですっかり息を吹き返してしまったフルスペックの巨神兵のようだ、しかも肩には、青い衣を着たナウシカを載せている。
ところで、子供の為と言い訳しながら以前購入した鳩時計も、我が家に来てそろそろ20年近くになる。左がオリジナル製品だが、オリジナルのままではどおしても文字盤が見ずらいので、アクリル絵の具で文字盤のところを少しだけ手を入れることにした。結果は、それほど簡単には治まらず、結局最後はおやじのいいお相手になってしまった。たかがアニメというなかれだ!